あー、なんで見舞いになんて行ってるんだろう。
昨日小林の病室で同僚と生徒たちと遭遇してしまったというのに、俺は懲りずにまた小林が入院する病院に足を運んでいた。
伊達先生から、
「卒業するまでは生徒だから。
卒業しちゃえば元生徒もただの知り合い。
それまでは男女の関係になってはだめですよ」
「卒業まであとたったの1年です。本当に好きなら待った方がいい」
と忠告された。
ルールを守っての関係。
『卒業を待つ』
今の小林にとってつらいのはこの1年だ。
卒業までの1年間彼女を見捨てて、1年後、
『はい、卒業しました』
『はい、もう生徒と教師ではないから付き合いましょう』
なんてことになるわけがない。
だって、彼女が苦しんでいるのは『今』だから。
これが教師としてNGならば、俺は喜んで教師を辞めよう。
けれど、一年待てば堂々と小林の隣に並べる。
教師として一定の距離を保てれば、小林の近くで見守ることだってできる。
いくら考えたところで、答えは「小林の傍にいてやりたい」しか出てこないのはわかりきっていた。
夢を諦める辛さは俺がよく知っている。
あの頃の小林はバレーが好きだと明るく笑った。
学校で俺の名を呼び、にこにこと手を振る顔が眩しかった。
花火を一緒に見た時も、スーパーであった時もいつもいつもころころと変わる表情がかわいくて、試合で見せたあの真剣な顔がかっこよくて。
見に来てよと言った小林の試合をもっと観戦に行けばよかった。
膝の不調に涙を堪えたあの日の小林の手は微かに震えていた。
今、あの日よりずっとずっと不安でつらくて怖いはずだ。
こんな不安な時くらい側にいてやりたいと思ってしまう。
男としてだろうと、教師としてだろうとなんでもいい。
隣にいてあげたい。
コンコン。
「失礼します。こんにちは」
隣のベッドの患者さんに挨拶をし、二言三言会話をして、小林のところに向かう。
その様子をじっと見つめていた小林は、俺と目が合うと手を振った。
俺はいつものように微笑んで、
「こんにちは」
と言った。
く
小林もいつもと同じ笑顔を俺に向けてくれた。
その笑顔に胸がぎゅっと締め付けられた。



