年が変わってしばらく経った頃。
数学準備室で学年末試験の問題を作成している俺の横で他の先生が、お茶を飲みながら小林の話を始めた。
「2年6組の小林那奈ですけどね。
テスト、どうすることになったんですか?」
俺は手を止め、先生たちの会話に耳を大きくする。
「病室で受けることになりそうですよ」
「小林さんも大変ですよね、確かバレー特待生でしたよね」
「転校するのでしょうか?」
「うーん。どうでしょう」
病室?
小林は入院しているのか?
転校ってなんだ?
いてもたってもいられなくなり、先生方の会話に口をはさむ。
「あの!
小林さん、何かあったのですか?」
「先生、知らなかったのですか?
小林、今、入院してるんですよ」
「入院?」
「先週あったバレーの試合中にケガをして救急車で運ばれたそうですよ」
「え!ケガ?」
「確か膝の靭帯断裂か損傷か、という話だったと思いますが」
バレーを休みたくなくて、病院にも行かなかった彼女が入院…。
膝の靭帯断裂ともなれば、もうバレーを続けられない可能性もある。
道端で膝を摩りながらじっと耐えていた小林。
涙をこらえてぐっと歯を食いしばる小林。
今の彼女の気持ちを思うと胸が苦しくなってくる。
小林に学校外で会うことは駄目だとは分かっていた。
しかし、どうしても彼女に会いたいという思いを押さえることができず、入院先へ車を走らせた。



