「失礼します」

校長室のピリ付いた空気に息をのむ。

「待っていましたよ、先生。
どうぞかけてください」
勧められた椅子に座る。

校長室には校長の他に教頭と生活指導の先生、女子バレー部顧問の伊達先生がいた。

そして小林と俺が車に乗ってデートしていたという噂があると言われ、説明を求められた。

俺は小林と偶然家が近いことや病院に連れて行ったことなどを説明した。

伊達先生が、昨日の部活で小林から膝の調子が悪いこと、病院での診断結果の話を聞いたと言った。

校長からは「軽率な行為は控えるように」と注意を言い渡された。



しっかりとお辞儀をして、伊達先生と校長室をあとにした。

「で。実際の所はどうなんですか?」
「どうもこうも、何もありませんよ」

土曜日の小林の泣き顔を思い出しながら、困った顔を見せた。

「僕も高校時代に膝を壊したんですよ。
だから他人事に思えなかっただけです」
「本当にそれだけですか?」

「それだけですよ」
「・・・まあ、そりゃそうですよね。
相手は高校生ですし。
それに先生なら彼女さんもいるでしょうし」

「そうですね。いますね」
「ははははっ。隠さないタイプなんですね。
とりあえず、これからは気を付けてくださいね」

お辞儀をして伊達先生と別れ、数学準備室に向かった。

彼女なんていない。
小林が好きだ。

んなこと言えるかよっ!

小林と付き合っったとして、誰からも祝福されない。
クラスメートどころか学校中からひそひそ後ろ指をさされるんだろう。
彼女の明るさに惹かれたんだ。
歯を食いしばって努力する姿や、不安で泣いてしまう弱さを見てしまって
隣で守ってやりたいと思ってしまった。

けれど、俺は教師だ。
自分から彼女の笑顔を奪うようなこと、絶対にしない。