季節は夏を迎えていた。

俺は夏期講習を終えて、家に帰っていた。
満員電車を降りてホームに立った。
車内の効き過ぎた冷房で冷えた体を、むわっとした熱波が襲う。

自動改札を出ていつものようにスーパーに寄ってビールを買って帰ろう。
それにしても今日は人が多い。
浴衣の人もいるし、祭りでもあるのか?

買い物袋を手に持って歩いていると、見知った顔があった。

「あ。先生みっけ」
「小林さん。こんばんは」

「まーたお酒ばっかり買ってる」
「夏だからねえ」

「え?」
「え?」
え?ってなんだ?

「なんか、先生感じが違う」
「あー・・・」
油断して素が出てしまった。
仕事モードから、ビール飲んでくつろぎモードになってたかもしれないな。

「そうですか?」
とにっこりと微笑んだ。
「あ。元に戻った!」

「ところで今日ってお祭りか何かあるんですか?」
「隣町で花火大会があるんだよ」

「あー。だから乗客が多かったんだ」
なるほどね。
と一人で納得していると、
「先生は見に行かないの?」
「帰って家でビール飲んで寝ます」

「えー。もったいない」
「何がですか?」

「この辺、結構綺麗に見えるんだよ。
そうだ!一緒に見に行こうよ。 
この近くの公園が穴場なんだよ」