離婚するはずが、凄腕脳外科医の執着愛に囚われました


『二年と言うから仕方なく送り出したのに、こんなに長い間未依ちゃんをひとりにするなんて。そりゃあ愛想を尽かせて我が家を出ていくのも無理ないわよ』
『富美、律はなにも遊びに行っていたわけじゃ――』
『あなたは黙っていてください! 未依ちゃんがどんな気持ちで律の帰りを待っていたのかと思うと……』

母は、未依を実の息子以上に可愛がっている。

彼女が母に学費を返していることや、結婚しているのを隠して旧姓で働いている事実などから、名ばかりの夫婦関係だと気付いているのだろう。

父がどう考えているかはわからないが、母は早くから未依に対する律の気持ちに気がついていたように思う。だからこそ、彼女が学生のうちは手を出すなと釘を刺してきたのだろうし、この数年は一時帰国もままならなかった律に腹を立てているのだ。

「ここからが勝負だな」

律は誰にともなく独りごちる。

あまり感情が豊かな方ではないという自覚はあった。楽しさや怒りといった人間らしい気持ちがないわけではないけれど、それを表立って出すことはあまりない。