離婚するはずが、凄腕脳外科医の執着愛に囚われました

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(新しい男を作るどころか、離婚届にサインをしろと迫られるとは)

二ヶ月前の出来事を思い出し、律はため息をつく。

あれ以降もケイトに何度も『自分を恋人にするべきだ』と言われ続けながら、律はようやく日本へと帰国した。

ここ数年は一時帰国さえままならぬほど忙しく、なによりも大切に思っている未依の顔を見るのも約三年ぶり。

抱きしめたら驚かせてしまうだろうか。アメリカでは挨拶だからと、頬にキスをするのはやりすぎだろうか。そんな考えが脳裏をよぎる。

ようやく夫婦としての生活が待っているのだと思うと、柄にもなく浮かれている自覚があった。

しかし、最愛の妻との再会に高揚する気分を奈落の底へと落としたのは、他でもない未依だった。

『疲れてるだろうから単刀直入に言うね。今まで本当にありがとう。これにパパッとサインしてくれる?』

満面の笑みで差し出してきた離婚届を見て、律は愕然とした。