結果、律は見事に全摘出に成功した。術後の経過も順調で、合併症なども見られない。
『ありがとう。君のおかげで、僕はまだ医師でいられる』
一ヶ月ほど一般病棟に入院し、リハビリを経て退院したが、今後感覚障害が一切でないとは限らない。すぐに現場に復帰できるわけでもないためブランクもあり、以前のような手術ができない可能性もある。
それはオリバー自身もわかっているだろう。それでも、律が医師としての自分を救ってくれたと深く感謝していた。
『早く日本に帰りたがっていたのに、引き止めてしまって悪かったね』
『いえ』
『僕は本気で君を後継者にと考えていたのだけど、君はそれを望んではいないようだ』
『デイビス先生の技術を受け継ぐのなら、ここでなくともできますよ。むしろ先生の技術や思いを日本に伝えて広めるのが、俺にできる最善だと思っています』
師事した恩あるオリバーの主治医を担当し、帰国を数年伸ばしたものの、律には日本に残してきた大切な女性がいる。
『それに、妻が待ってますから』
『あぁ、そうだったね。それについても、ケイトが申し訳ない。あの子を甘やかしてきたせいで、随分君にも迷惑をかけたようだね』
『それについて、ご相談があります』
律のある申し出に、オリバーは苦い顔をしながらも了承してくれた。そして先月のうちに病院とオリバーには話をつけ、十月には日本に帰国できるよう手筈を整えている。



