離婚するはずが、凄腕脳外科医の執着愛に囚われました


うんざりしながらそう考えていたが、倍以上の年月がかかってしまった。ケイトは『律ってば、やっぱり私と離れたくないんでしょう?』などと見当違いなことを言っていたが、実際は深刻な理由だ。

それは、オリバーの体調不良が発端だった。

律やオリバーの勤めるケリー・クリニックは世界屈指の医療研究機関であり、国内外の各界のVIPがこの病院で診察を受けると言われている。ニュース雑誌や医療雑誌の『全米の優れた病院ランキング』では毎年一位を取り続ける、大規模な総合病院だ。

アメリカ全土だけでなく、世界中から難病の患者が訪れる。特に脳外科に在籍するオリバーのもとには、他の病院で匙を投げられた患者が最後の希望に縋るように救いを求めてやってくるのだ。

けれど、神の手を持つと言われるオリバーも当然ながら人の子だ。若い頃ならいざ知らず、御年六十を過ぎた彼が不眠不休で働き続けるなど不可能で、休みがなければ体調を崩してしまう。

そのため、オリバーが後継を育てるために全国各地から集めた優秀な脳外科医が、彼の技術を学び、指導を受けて手術を行い、徐々にオリバーの負担を軽減している。中でも律はオリバーお墨付きの手技を習得し、多くの高難度の手術を成功させてきた。

ようやく約束の二年という派遣期間を終えた頃、オリバーが身体の不調を訴えた。吐き気やめまい、ものが二重に見えるといったもので、初めはこれまでの疲労がたたったのではと思われていた。しかし、徐々に手足に軽い痺れが出てきたため念の為にとMRIを撮ったところ、脳幹に古い出血痕を伴うカヴァノーマが見つかったのだ。