関係者でもないのに病院にやって来ては律の周りをうろちょろするが、オリバーはそれを一切咎めてはこなかった。

それどころか、律がアメリカに渡って初めて一緒に食事をした際、酒に酔ったオリバーが『ケイトを妻に迎える気はないか』などと迂闊な発言をしたため、余計に面倒なことになった。彼に苦言を呈しても、『僕も君が一生この病院にいてくれた方がいいからね。奥さんと離婚するつもりはないのかい?』などと悪びれず、孫娘の恋を応援しだす始末。

最近になってようやく孫娘を諌めるようになったオリバーだが、これまで許されていたためか、ケイトは一切話を聞かない。

彼女は初対面から律を気に入ったらしく、なにかと話しかけられることが多かった。オリバーとの食事の席に毎回のようにやってくるのはもちろん、律の勤務シフトをどこからか仕入れ、職場で待ち伏せすることも多々ある。

『何回も言わせるな。俺は結婚してる。恋人探しは他をあたってくれ』
『あら? こっちに連れてきてないってことは、その程度の関係なんでしょう? いいじゃない、一度寝てみれば私の方がいいと理解できるわ』
『妻を裏切るつもりはない』

そんなやり取りを、何度させられただろう。

毎日丁寧に巻かれたブロンドの髪、ヘーゼルの瞳、女性らしい魅惑的なスタイルを持つ彼女は、客観的に見れば美しいのだろう。本人もそれを自覚しており、モデルとして活動しているケイトは人一倍容姿には気を遣っているため、言動も自信に満ちている。

謙虚を美徳とする日本の文化とは違い、アメリカでは老若男女関係なく完全なる実力主義だ。それだけならば、別段なにも思わない。律自身も世襲や年功序列よりも実力主義に賛成だし、そちらの方が気質的に合っているとすら思う。