なんと言えばいいのかわからず、未依は黙ったまま律を見つめた。
こんな風に深く未依のことを考えてくれていたなんて、全然気付かなかった。
(ううん。私に気付かせないように、ずっと守ってくれてたんだ)
未依の家族になるために、未依をひとりぼっちにしないために、律は自分の気持ちを押し殺していたのだ。
「当時は、俺が日本にいない間に未依が他の男のものになるのが許せなくて焦ってたんだ。だからといって強引に入籍するなんて、改めて考えると最低だ」
「最低なんて、そんな風に思ったことはないよ。前にも言ったけど、ひとりぼっちになった私と家族になってくれた律くんに感謝してる。婚姻届を渡された時は驚いたけど、サインをしたのは私だよ。私が自分で律くんと結婚するって決めたの」
嬉しかったのだ。たとえ恋愛感情がないとしても、律が自分との約束を守ろうとしてくれたことが嬉しかった。
幼い頃からずっと好きだった初恋の人。そんな彼の妻になれるのならと、未依は喜んで婚姻届にサインをしたのだ。
「未依が仕事に慣れた頃に帰国して、ちゃんとした夫婦になりたいと言うつもりだった。まさか帰国に五年近くもかかるのは誤算だったし、離婚を切り出されるなんてな」
「それ、は……」
「未依を責めてるんじゃない。五年も放置されたら当然だ。だから、未依がどうしても離婚したいというのなら受け入れる。でも、俺は絶対に未依を諦めない。好きなんだ」



