離婚するはずが、凄腕脳外科医の執着愛に囚われました


初めて聞く話に、未依は目を見開く。

まさか、須藤の両親がそんなことを律に言っていたなんて思いもしなかった。

「まぁでも、それは俺も同感だったから。未依が大学を卒業するまでは気持ちを告げず、いい兄貴分に徹すると決めてた。臨床留学の話がでるなんて想像もしてなかったからな」

アメリカへ行く話が出たのがいつなのか、未依は正確には知らない。けれど、律は一度断っているらしい。

それでも世界有数の〝神の手〟から直々に学べる機会を棒に振るなんてもったいないと周囲や院長である父親からも説得され、また律も医師としては絶好のチャンスだと理解していたため、二年という期限を設けて承諾したのだという。

「正直、未依を連れて行くことを考えなかったわけじゃない。でも、ひとりの知人もいないアメリカにつれていったところで、きっと俺は自分のことで手一杯だ。それに、未依は看護師になるために必死で勉強してきた。連れて行く選択肢は選べなかった」
「うん。英語も話せないし、一緒に行くかと聞かれても、きっと行けなかったと思う。でも……」

どうして渡米前にひと言、未依に対する想いを伝えてくれなかったのだろう。

そんな疑問が顔に出ていたのか、律はくしゃりと前髪を掻き上げると、聞き取れないほど小さな声でぼそりと呟いた。