「両親を失ったばかりの未依に、俺の気持ちを押しつけることは絶対にしないと決めていた。未依の気持ちは、もう俺にないだろうとわかってたから」
「え……?」
未依の気持ちが律から離れたことなど一度もない。どうしてそんな勘違いをしたのかはわからないが、苦く笑う律は普段とは違い、ひどく自信がなさそうに見えた。
「ずっと俺を避けていた未依が、突然以前と同じように食事の席についたのを見て、俺は見限られたんだと悟った。それはそうだよな。六つも年上の俺より、周りには同世代の男がたくさんいただろうし」
「それは――」
違う、と口にするより先に、律が続ける。
「でも、必ずいつか本当の意味で家族になりたいと思っていたから、もう一度未依に俺を好きになってもらうために努力するつもりだった。でも、うちの両親から釘を刺されて」
「釘?」
意味がわからず首をかしげると、律は言いづらそうに口元を手で覆った。
「まだ学生の未依をうちで預かる以上、神崎のご両親に顔向けできないことはするな、と」



