あの日の心の傷はすでに癒えているけれど、決してなかったことにはならない。大好きだった相手に恋愛対象外だとバッサリ振られたのだ、忘れられるはずがない。
「そうだな。ゆっくり話そう」
すると、律は未依を連れてリビングに戻り、再びソファへ腰を下ろした。
「……あの時は、そう言うしかなかった」
当時を思い出すように、律は少し顔を顰めて話し始める。
「初めて会った日から、俺たち兄弟について回る未依を可愛いと思ってた。でもさすがに六歳も年下の女の子に、最初から恋愛感情を抱いていたわけじゃない。俺が高校生になっても、未依はまだ小学生だったし」
「それは、うん」
「会うたびに『大好き!』って言われてたのも、未依はひとりっ子だし、俺たちを兄のような存在として慕ってるんだろうって思ってたんだ。だから、未依から告白された時は驚いた」
そこで言葉を区切った律は、深く息を吐き出した。
「驚いたけど、心の中に嬉しいって感情が芽生えた。真っ赤な顔をして告白してくれた未依が可愛くて、抱きしめたくなった。でも、そんな風に考えた自分に、物凄く動揺して狼狽えた。中学生の未依を女として見てることに気付いて、自分が信用できなくなったんだ」



