(櫂くんの目が、早く帰れって言ってたし……)
幼なじみとはいえ、律や櫂の過去の恋愛事情を知っているわけではないけれど、どうやら櫂はものすごく独占欲が強いらしい。
高校時代の千咲の様子を知っている未依に対し、ライバル心を向けながらも話を聞きたそうな顔を見た時には、思わず噴き出してしまった。
親友と幼なじみの仲睦まじい様子を微笑ましく感じるのと同時に、羨ましくもある。
そんなことを考えながらマンションに着くと、エントランスでオートロックを暗証番号で解錠した。
エレベーターで四階まで上がり、共用廊下を一番奥まで歩きながらバッグから鍵を取り出し、鍵穴に差し入れる。
「……あれ?」
左に回しても手応えがなく、音もしない。もしやと思って、そのままドアノブを引いてみると、案の定玄関の扉が開いた。
「うわぁ、またやっちゃった」
未依は自他共に認めるおっちょこちょいだ。仕事ではうっかりミスなど許されないため気を張っているせいか、日常では財布を持たずに出かけたり、電車の中に傘を忘れたりと、いまだに小さな失敗をしてしまう。



