離婚するはずが、凄腕脳外科医の執着愛に囚われました


「櫂くん、冷たい」
「家に上げてやっただけでも譲歩してるだろ。ったく、貴重な休日なのに。抱きつくなら兄貴にしてこいよ。猪突猛進なのが未依の売りだろ」
「そっ、そんなことできるわけないでしょ! だいたい売りってなに、売りって!」

未依は真っ赤になって反論した。

結婚しているとはいえ、律とは手を繋いだこともないのだ。抱きしめられたのも、両親の葬儀の日のみ。それも恋愛感情ですらなく、ただ未依を慰めるためだけのものだった。

(でも、あの時の律くんの温かさに、私は救われたんだ……)

彼が『家族になる』と言って支えてくれなければ、未依は両親の元へいきたいと考えてしまっていたかもしれない。

「抱きつくかはともかく、ちゃんと話したほうがいいよ。私は高校生の頃から未依が旦那さんを想ってたのを知ってるから、後悔しない選択をしてほしいなって思う」
「兄貴の話、ちゃんと聞いてやって」
「うん、ありがとう」

ふたりに励まされた未依は、目が覚めた紬と少しだけ遊んでから、夫婦の自宅をあとにした。