「でも入籍した時だってなにも言われなかったし、どうして今さら……」
「昨日、兄貴にその理由を聞かなかったのか?」
「だって、急にあんなこと言うから驚いて……」
夜勤明けの疲れと、突然の律からの告白でいっぱいいっぱいになった未依は、脱兎のごとく自宅へと逃げ込んでしまい、それ以上の会話はなかった。
小声でそう呟くと、向かいに座る櫂と千咲は顔を見合わせて肩を竦める。千咲は苦笑しているだけだけど、櫂の顔にはあからさまに呆れが滲んでいた。
「未依」
「わかってる。わかってるから言わないで」
送ってもらったお礼も告げず、話の途中で逃げ出すなど、いい大人のする振る舞いではないのは未依だって自覚している。
きちんと話さなかったから、こうしてうだうだ悩む羽目になっているというのも、ちゃんと理解している。
けれど、あのまま律との会話を続けるのは、どうしても耐えられなかった。
一旦自分のテリトリーに戻り、言われた内容を整理しなくてはならないほど、頭の中が真っ白になったのだ。



