離婚するはずが、凄腕脳外科医の執着愛に囚われました


看護師を志した頃から変わらない、未依なりのポリシーだ。そのためには、患者とのコミュニケーションはとても重要だと考えている。

「橋田さんはもうすぐ退院ですね」

未依は、窓際のベッドに座る男性に声をかけた。

三十歳になる橋田は寡黙な男性で、この賑やかな大部屋にいてもあまり笑顔を見せない。七〇八号室は笹井をはじめ、陽気な性格の人ばかりで仲がいいため、その雰囲気に馴染めなかったのかもしれない。

だからこそ、未依はこの部屋の担当になるたびに彼の様子を気にかけていた。

「退院後もお薬は続きますけど、橋田さんなら飲み忘れもなさそうで安心です」

彼は几帳面な性格なのか、処方された薬は毎回日付を記入してピルケースに移したものをサイドボードに並べている。

「元気になってよかったですね」

そう言って未依が微笑むと、彼はやはりなにも言わず、小さく頷いた。