それから、ふたりは無言で未依の実家のマンションへと向かった。ひとりで帰れるし、それより早く休んでほしかったけれど、律は頑なに送ると言ってきかなかった。
「⋯⋯送ってくれてありがとう」
「ご両親と暮らしていた部屋に、ひとりで住んでるのか」
きっと、両親がいない実感が押し寄せてくるのではと心配してくれているのだろう。律はポーカーフェイスだけれど、長い付き合いのせいか、わずかな表情の違いで感情が読み取れる。
そういうわかりにくい優しさを見つけるのが、たまらなく好きだった。
胸に迫る感傷を振り切るため、未依は笑顔で答える。
「うん。でも大丈夫だよ。ひとりじゃ広すぎるけど、新しくマンションを契約するのも大変だし。律くんだって、実家に戻ってるんでしょ?」
「いや。病院の近くにマンションを買った。未依と住むために」
未依は絶句して、当然のように言い放った律を見つめる。
「……私と?」
「あぁ。家族になると言ったのに、長い間ひとりにしてしまって悪かったと思ってる。恨まれても仕方がないとも」



