まるで愛おしい相手に向けるような甘さを含んだ眼差しに、未依の心臓が大きく跳ねる。
(これは、相変わらずドジな私に呆れて笑ってるだけ)
普段が無表情なだけに、小さく微笑むだけでも抜群の破壊力がある。見慣れている未依でさえ、毎回ドキドキしてしまうのだ。
(この顔を病院で見せたら、今とは比じゃないくらい人気になるんだろうな)
ただでさえアメリカ帰りの優秀な脳外科医として名を馳せているのだ。院長の長男で、本人のルックスが俳優顔負けとあれば、女性たちの噂の的になるのは理解できる。
それでもあからさまに言い寄られたりしていないのは、結婚しているという噂以上に、本人が恐ろしいほど無表情で、誰に対しても塩対応だからだ。
もし少しでも笑顔を見せることがあれば、きっと怒涛のごとく女性が押し寄せてくるだろう。その状況を想像すると、胸の奥がモヤモヤする。
けれど離婚を願い出ている未依に、そんな感情を抱く権利はない。わかりきっていることを、未依は何度も自分に言い聞かせた。



