「はぁ、そそっかしいのは相変わらずか」
「うう……返す言葉もありません」
「元々財布を出させる気はなかった。諦めて奢られてろ」
不遜な言い方に聞こえるけれど、これが律なりの優しさなのだと未依にはわかる。
「ありがとう。ごちそうになります」
「未依のせいで、今俺の幸せがひとつ減ったな」
子供の頃からの未依の口癖。
『ため息をつくと、幸せが逃げちゃう』
きっとなにかの本で読んだのだろうけれど、なぜかその迷信を信じ込み、頑なにため息を我慢していた。
今も信じているわけではないけれど、なんとなく気持ちが後ろ向きになってしまう気がして、意識的にため息をつかないようにしている。
「……覚えてたんだ」
「ことあるごとに言われたからな。ため息の原因は大抵未依だったのに」
「ひどい、そんなことないよ」
ムッとして口を尖らせると、それを見た律が口の端を小さく上げた。



