離婚するはずが、凄腕脳外科医の執着愛に囚われました


本当の夫婦ならばともかく、自分たちは間もなく離婚するのだ。

「それに、まさかうちを出てひとり暮らしを始めてるなんて思わなかった。それも、二年以上も前から」
「夜勤もあるし、おじさんとおばさんの迷惑になりたくなかったから」

嘘ではないけれど、真実でもない。

ひとり暮らしを始めたのは、ちょうど律との離婚を決意した頃だ。

本来ならば就職してすぐにひとり立ちすべきだと思っていたけれど、律が海外へと発ち、櫂もすでに実家を出ている。

富美に「寂しいけど、未依ちゃんがいてくれてよかったわ」と言われてしまえば、すぐに出ていくとは言い難かった。

それでも二年と少し前に実家のマンションに戻った。分譲マンションのローンは父が亡くなったことで保険金が支払われ、返済は免除されている。

大学四年間と就職してからの二年間は、義父のツテで不動産会社が管理してくれていて、定期借家契約を結んでくれていた。

その期限が切れる際に実家に戻りたいと義父母に伝え、手筈を整えてもらったのだ。

元々愛し合って至った結婚ではないため、会えない寂しさに不満を抱いたわけではないし、他に好きな男性ができたわけでもない。