高校生の頃、未依が看護師を目指しているという話をすると『そうか。頑張れ』と、ぶっきらぼうな返事をしながら頭をぽんと撫でられたことがある。十二歳の律が、六歳の未依にしていたのと同じ仕草だ。
やはり律にとって、未依は永遠に子供なのだろう。恋愛対象外だと念を押されているようで悔しい反面、当時は以前のような距離に戻れたのが純粋に嬉しかった。
けれど成人し、社会人として五年目を迎えた今、恋愛対象として見られていないのはともかく大人として扱われないのは、自身が成長していないと言われているようで悲しい。
「もう看護師になって五年目だよ? いつまでも子供扱いしないで」
「子供扱いなんかしてない。一人前になったんだなと思っただけだ。ここ数日、働いている未依を見ていればわかる。頑張ってるな」
特段やり取りはないけれど、病棟で顔を合わせる機会は少なくない。律と一緒の病院で働いているなんて慣れなくて変な気分だったけれど、現金なもので褒められると一層やる気が出た。
「うん。ありがとう。律くんにそう言ってもらえて嬉しい」
噂好きの看護師に『笑ってる顔とか見たことないんだけど』と言わしめていた律が、未依に甘やかな表情を向けた。
ふいに褒められたのと、まるで本物の妻に向けるような表情に、未依の鼓動が早鐘を打ち始める。



