笹井は長く入院している四十代後半の男性で、二児の父。明るく朗らかな性格で、看護師にも気さくに接してくれる。
「わはは! いいじゃないか、可愛くて」
「私、もう二十七ですよ? はい、お熱はないですね。次、血圧測らせてくださいねー。笹井さん、夜間の血圧も安定してきましたね」
「薄味の病院食のおかげかぁ。たまには思いっきりジャンキーなもん食いたいんだけどな」
「気持ちはわかりますけど、もう少し我慢しましょうね」
未依は手際よく入院患者のバイタルサインを測定し、雑談をしながら身体だけでなくメンタルの調子もチェックする。
「紺野さん、よく眠れましたか?」
「まぁまぁです。寝返り打てないのが辛くて」
「ドレーンが入ってると体勢が限られちゃいますもんね。お痛みはありますか?」
「ううん、大丈夫です。っていうか神崎さんってめっちゃ童顔ですよね。まだ学生で通りそうですよね。俺、同い年って言われたら信じるかも」
「あっ、人が気にしていることを! ついに口にしましたね?」
大学生の紺野の言う通り、未依は同年代の女性よりも幼く見られることが多い。卵型の輪郭に、くりっとした大きな瞳、ぷっくりした唇はリップを塗らなくても淡い桜色をしている。
メイクで大人っぽく見せようと頑張っていた時期もあるが、ただ単にケバくなって似合わない上に看護師として相応しくないため、今ではもう諦め気味だ。



