「私の妻になにか?」
見上げると、律が不機嫌さを隠しもせずに目を眇めていた。
「えっ、律くんっ?」
呆然と彼を見つめているのは、未依だけではない。
「つ、妻⋯⋯?」
ショックを受けたような、裏切られたような悔しさを滲ませる橋田は、すぐにハッとして律に反論した。
「あ、あなた確か須藤先生ですよね。よく看護師が騒いでいるのを聞きました。でも彼女は神崎と――」
「結婚後も旧姓で働くのは珍しくないと思うが」
「そ、それは……。いや、でも」
睨むような鋭い視線に怯んだ橋田は、未依の方へと向き直る。
「神崎さん、本当なんですか? 結婚なんて……」
律と入籍しているのは事実だが、間もなく離婚予定である。かといって、それを丁寧に橋田に説明する義理もない。



