(食堂でのやり取りが、じわじわ噂になってるんだよね……)

あの日、未依はすぐにその場から逃げるように食堂から去ったため、未依が須藤兄弟と一緒のところを見た人間は限られている。

それに彼らと違い、未依は特段目立つタイプではない。ユニフォームを見れば看護師だとわかっただろうが、この病院には三百名近くの看護師がいるため、どこの誰かまで特定するのは難しいに違いない。

そう高をくくっていたけれど、未依を知る病院スタッフがやり取りを聞いていたらしく、一部には律の妻だとバレてしまっている。

この数日で、すれ違い様に嫌みを言われたり、遠巻きにヒソヒソされたりすることが増えた。学生時代にも同じようなことがあったため、大人になってもこれかとうんざりする。

『気にしないようにね』
『なにか事情があるんでしょ?』

そう言って、同じ病棟で働く同僚たちが騒がないでいてくれることだけが救いだった。

『話したくなったら、いつでも頼ってね』

先輩のあかりも、きっと未依が律の妻だと察しているのだろう。とてもよくしてくれた彼女に対して、結婚している事実や、相手がこの病院の医師だと黙っていたことに罪悪感を覚える。