両親を亡くしてから一緒に暮らしていた未依を、妹のように大切に思ってくれている。だからこそ心配してくれたのだ。

けれど、この電話をしている時、彼は千咲と一緒にホテルの部屋にいたらしい。あとから聞いた話だが、離婚を考えている未依を相手に、やっと想い人を手に入れたところだなんて口にできず、櫂は病院にいると嘘をついたそう。

けれど、その電話と嘘のせいで千咲は櫂が既婚者なのだと誤解し、姿をくらませた。さらに、その一夜で授かった子供を内緒で生んでいたのだ。

すれ違いの原因となってしまったのが未依自身のため、ふたりが結婚すると報告をもらった時は号泣するほど嬉しかった。

そんなことを思い出していると。

「脳外の律先生だって、うちの看護師と結婚してるって話だし」
「ねぇ、それって本当なの? 女避けじゃなくて?」

看護師たちの話題が律へと移り、ぎくっと身体が強張った。

「事実らしいよ。病棟の子たちが騒いでたし」

噂話をしている彼女たちはロッカーの向こう側にいるため、未依の姿は見えていないはずだ。それでも、なんとなく身構えてしまう。