驚いたのが、彼女が未婚で子供を生んでいたことだ。紬という名の女の子はとても可愛らしく、未依はまるで親戚のおばちゃん感覚で彼女の成長を見守ってきた。
その紬の父親が櫂だと知ったのは、つい二ヶ月ほど前。
救急医の櫂と救命士として働いていた千咲は、互いに惹かれ合っていたにもかかわらず誤解から長い時間すれ違い、最近になってようやく収まるべきところに収まった。
(まさか千咲と櫂くんが知り合いだったなんて、世間は狭い)
そのすれ違いというのは、櫂と未依の電話を千咲が聞いてしまったことだった。
今から二年と少し前。夜勤明けに院長である義父から律が間もなく帰国できそうだと聞き、未依は退路を断つために櫂へと電話した。
『櫂くん。私、律くんと離婚しようと思う』
『はっ? 離婚?!』
唐突に未依の決断を聞かされた櫂は、とても驚いた声で『どういうことだよ』と問い詰めてきた。
『同情で律くんに結婚してもらったけど、このままじゃダメだってずっと考えてたんだ。だから、律くんが帰国したタイミングで離婚を申し出ようって決めてたの』
『決めてたって……俺はなにも聞いてない』
『ごめんね。でも櫂くんには私の決意を知っておいてもらおうと思って。あ、今さらだけど家にいるの? 時間大丈夫?』
『……あ、いや、病院にいる。とにかく、一旦落ち着いて。離婚の話、父さんたちにはまだするなよ。今日帰ったら話そう』



