興味津々でこちらをじっと見ている人、チラチラとバレないように視線を向けてくる人、集中して食事をする振りをしながら聞き耳だけを立てている人など反応は様々だが、食堂にいる人たちがみな一様にこちらを意識しているのがわかる。

しかし彼はそんなことお構いなしに、未依をじろりと睨みつけてくる。

「旧姓で働いているなんて、俺と結婚していると知られるのがそんなに嫌だったか」

図星をさされた未依はギクリと肩を竦め、彼から目を逸らした。

この病院は律の父、つまり未依の義父にあたる武志が院長を務めている。武志には「院長先生の義理の娘だと知られると周囲が気を遣っちゃうから」と言ってあるが、当然ながら本心は別のところにあった。

就職当時、二十二歳の新米看護師が結婚しているだけでも珍しい上に、臨床留学中のエリート脳外科医が夫だなんて知られたら、平穏な職場ライフが望めないのはわかりきっている。

だから仲のいい同僚にも結婚していること自体を黙っているのに、なぜ律は未依の努力を無に帰すような真似をするのか。

(ちょっと待って、それよりも……)

未依はハッとして、先ほどの律のセリフを反芻した。