未依はぽつりと呟いた。
「私、患者さんとの距離が近いのかな……」
看護師の仕事はハードだ。責任の重さや日々勉強しなくてはならないという部分はもちろん、患者の病気だけではなく精神的な部分のケアも重要な仕事である。
だからこそ、未依は医師だけではフォローしきれないメンタル部分を看護師がきちんとみておくべきだと思うし、辛かったり弱音を吐きたくなった時に気付ける位置にいたいとも思う。
看護師の中には「忙しいんだから患者さんとの雑談に付き合わなくてもいい」と言う人もいるし、未依だっていつでも付き合えるわけではない。
それでも担当する病室をラウンドしてバイタルチェックをする際には、できるだけ全員と会話をしようと心がけている。
事務的な会話ではない、たわいもない世間話をすることで入院中の心細さを緩和できればいいと思うし、思いもよらぬところから事態が好転することもある。現に薬を飲まなかったり病院を抜け出そうとしたりと対応に困っていた林は、孫の話をするだけで嘘のように機嫌がよくなるとスタッフステーションでも話題になったほどだ。
当然、そこに他意は一切ない。病気と闘う患者の手伝いをしたいだけで、男性患者に対して特別な思いを抱いたことは一度もない。



