「階段から落ちたところに居合わせたらしい。警察には連絡済みで、これからここに来るそうだ」
「大丈夫だったのか? 怪我は?」
焦った表情で矢継ぎ早に尋ねる律は、未依が座っているベンチの前に膝をつき、両手をぎゅっと握る。
「私は大丈夫。でも橋田さんが……階段から……」
「なにがあったんだ?」
「たまたま正面エントランス脇の階段で会ったの。橋田さんは、私が彼に好意を持っているって勘違いしてたみたい。私の部屋の鍵が開いていたのは、自分を待ってたからだろうって断定して話を進めてて。それを否定したら急に大声で怒鳴って、『もう一度入院したら優しくしてくれるはずだ』って、自分から……」
その言葉を聞いた律は、言葉をなくした。
「どうしよう、私がもう少し言い方を考えていれば――」
橋田に対し、気を持たせるような振る舞いをした覚えはない。
けれどあれほど自分に好意を寄せているのだと疑いもしない彼を見ていると、未依にもなにか過失があったのではと考えてしまう。
「それは違う。無断で人の部屋に入ったり、気を引きたくてわざと目の前で怪我をしてみせたりするなんて、どう考えても真っ当じゃない。未依が罪悪感を覚える必要はないんだ」



