(橋田さん、わざと階段から自分で……)
小刻みに震える自分の身体を両手でぎゅっと抱きしめる。理解し難い橋田の行動が恐ろしかったのもあるけれど、それをさせてしまったのは未依なのではないかという罪悪感に襲われた。内臓がひっくり返りそうな気持ち悪さに、何度もごくんと唾を飲み込む。
胃の不快感を覚えながら警察へ電話をかけると、すぐに病院に警察官が事情を聞きに来るらしく、未依もここで待つこととなった。ガクガクと震える膝に鞭打ち、なんとか救急出入口の方へと歩いていく。
初療室と呼ばれる診察室では、櫂が脳外科に応援要請をしている。
「救急の須藤です。脳外の先生お願いします。三十代前後の男性を搬送中です。病院エントランス脇の外階段およそ一、五メートルから転落。意識はあるけど混濁気味。後頭部に挫創あり。頭部CT実施済みです」
扉の奥に見える緊迫した雰囲気に、思わず圧倒された。
未依が初療室から待合のベンチへと移動すると、電話を終えた櫂が心配そうにこちらにやって来る。
「患者は知り合いか?」
「一ヶ月前までうちの7A病棟に入院してた患者さんなの。消化器内科にカルテがあるはず。橋田元貴さん」
「わかった、確認する。沖田」
「了解しました」



