離婚するはずが、凄腕脳外科医の執着愛に囚われました


「結婚したのは私の意思であって脅されてなんていませんし、離婚なんてしません」
「り、離婚しないだって? それなら、この先どうやって僕と一緒になるつもりなんですか」
「おかしな勘違いをされているようですが、橋田さんと一緒になるつもりはありません。私が好きなのは夫だけですから」

そこまで言って、ようやく橋田は未依の態度に疑問を感じたらしい。

「か、神崎さんは僕を好きなんですよね? だって僕が吐いて服を汚したって笑ってくれたし、ずっと背中をさすり続けてくれた。いつも病室に来るたびに話しかけてくれたし、僕を気にかけていたのだってちゃんとわかってるんだ!」
「私は看護師です。患者さんの吐瀉物を処理するのも、少しでも楽になるように背中をさするのも私たちの仕事です」
「……仕事?」
「病気と闘う患者を少しでも手助けしたいと、橋田さんだけじゃなくみなさんに同じ対応を取っています。私は看護師ですから」
「ふざけるなっ!」

突然の大声に、未依はビクッと身体を跳ねさせる。

「そんなはずはない! 神崎さんは僕が好きなんだ、僕にはわかる!」

彼は顔を真っ赤にして突然叫んだかと思いきや、ふと手を口元に当てて俯き、ぶつぶつと呟き考え込んでいる。その感情の浮き沈みは見ていて異様なほどで、不法侵入を正当化している点や未依が橋田に好意を持っていると思い込んでいる点からも危うさを感じさせる。ひとりで対処せずに人を呼ぶべきだと、ようやく思い至った。