離婚するはずが、凄腕脳外科医の執着愛に囚われました


震える声で尋ねると、彼はなにを今さらと笑う。

「カフェに誘ったのに、行かないとごねたのは神崎さんでしょう? だから僕は別の方法で君へのお礼を考えたんだ。あの医者が通用口で待つなと言うから仕方なく君の自宅を調べて訪ねると、鍵は開いていた。だから僕はお礼に君の部屋を綺麗に整えてあげたんです。ねぇ神崎さん、どうして通報なんてしたんですか?」
「お礼はお気持ちだけで十分だとお伝えしたはずです。自宅を調べて、勝手に人の部屋に入るなんてどういうつもりなんですか」

彼の行いを糾弾すると、橋田は困ったように眉を下げて「すみません、僕の配慮が足りませんでした」と微笑む。

「女性にズボラさを指摘するなんて、恥をかかせてしまいましたね。『家事を疎かにするな』なんて、一方的でした。謝ります」
「そうじゃなくて……他人の部屋に勝手に入るなんて不法侵入ですよ。犯罪です!」
「神崎さんは鍵を開けていたじゃないか。僕を待っていた証拠でしょう?」
「違います! たしかに鍵を掛け忘れたのは私の落ち度ですが、橋田さんを迎え入れるためではありません。それから、先日お会いした時にわかったと思いますが、私は結婚しています」
「わかっています。きっとなにか事情があるのでしょう? 僕はバツイチだって気にしませんし、困っているのなら助けたい。あのやたらと偉そうな医者が神崎さんを脅しているんですよね。ちゃんと離婚できるよう、一緒に戦いましょう」

会話が上滑りしていて成立しない。恐怖と同時に憤りを感じた未依は、感情的に言い返す。