離婚するはずが、凄腕脳外科医の執着愛に囚われました


「あっ、橋田さん。こんにちは。退院後の検診ですか?」

入院していた患者の多くは、経過を診るための検診日が設けられている。橋田も外来に来ていたのだろうと思ったのだが、彼からの返答はない。

元々寡黙ではあったが、階段の上からこちらを見下ろす橋田からはどこか不穏な雰囲気を感じる。無意識に後ずさると、それを目ざとく見咎めた橋田が目を眇めた。

「神崎さん、どうして家に帰ってこないんですか?」
「……え?」

首をかしげる未依に、彼はニィッと引き攣った笑みを浮かべる。

「看護師として忙しいから家事が疎かになりがちになるのはわかります。だからといって、家を放置してどこに寝泊まりしているんですか? 僕は毎日掃除しないと気が済まないし、使った食器はすぐに洗いたいんだけど、まぁその辺は追々一緒に暮らし始めてから摺り合わせていけばいいか。ただ、郵便物は届いたらすぐにチェックすること。重要な書類なんかを見逃していたら大変ですからね」

橋田の言葉を飲み込むのに、数秒を要した。

(掃除、使った食器、郵便物……、まさかっ……!)