(ボナペティまで地下鉄で五駅だし、そっちの方が早いんだけど……約束したからなぁ)
律と同居するきっかけになったのは、未依の実家の部屋に何者かが侵入した形跡があったから。警察を呼んだものの周囲のパトロールをする以外の対処法は取られず、結局犯人はわからずじまい。
そのため、しばらく病院の往復以外はタクシーを使うようにと律だけでなく富美からも厳命されている。
電車で十分ほどの場所にわざわざタクシーで行くのはもったいないと思うけれど、未依の部屋に侵入されてからまだ一ヶ月。もうしばらくの間は警戒しておくべきだと未依自身も考えているため、救急外来の入口でもある時間外出入口の方へと回った。
病院のエントランスは二階にあり、正面のロータリーにはタクシー乗り場が設けられている。時間外出入り口の横の階段をのぼればすぐの場所だ。
(イブだけど、タクシー捕まるかな)
未依が階段を上ろうと上を向くと、男性が下りてくるところだった。
「神崎さん」
声をかけられ、未依は相手に気付く。



