そしてプロポーズに頷いた一番大きな理由は、幼い頃の初恋をずっと忘れられなかったから。

ずるいとわかっているのに、律の優しさに甘えてしまった。

恋愛感情がなくてもいい。律と結婚できるのなら、奥さんにしてもらえるのなら――。

叶わないはずの恋が、目の前に転がっている。手を伸ばせば、それが叶う。律とずっと一緒にいられる。

そんな誘惑に負け、自分本位な考えや独占欲で婚姻届にサインした。

心のどこかで、結婚してずっと一緒に過ごしていれば、いずれ愛される未来があるかもしれないと期待していたのかもしれない。

しかし、そんな淡い期待はすぐに打ち砕かれる。

未依の大学卒業と同時に籍を入れたが、その後すぐに律は臨床留学のために渡米した。

結婚式も指輪もない。新婚の緊張感やときめきを感じる間もなく、海の向こうへと飛び立っていったのだ。

(きっと、バチが当たったんだよね。律くんはちゃんと私を恋愛対象外だってきっぱり言ってくれてたのに、勝手に期待したりして)