『そんなっ、だって、だって……』
『いい加減にしてくれ。なにを言われても俺は君に思わせぶりな態度を取ったつもりはないし、実際なんの思いも抱いていない』
『どうして私じゃダメなの?』
その問いに、律の答えはひとつしかない。
『未依じゃないからだ』
昔からずっと、律の目には未依しか映っていない。自分でもそれがなぜかなんてわからない。恋とは脳と同じくらい不可解だ。
『なっ……!』
ケイトが反論しかけた瞬間、コンコンと焦りの滲むノック音が聞こえた。
「やっと来たか」
入ってきたのは、以前もケイトを引き取りに来た彼女のマネージャーである四十代くらいの女性と、ケイトの祖父であるオリバーだった。
以前交わした約束を果たしてもらうために、律がケイトを引き取りに来るようオリバーに電話したのだ。



