「りっ……須藤先生はまだお仕事ですよね。戻ってください」
「いや、今リハ科との打ち合わせを終えたところなんだ。もう上がれる」
幸い今日はオペの予定もなく、急変した患者もいない。午後は検査結果の確認や治療方針の調整、カルテの入力や翌日の指示オーダーなど事務作業も捗ったため、このまま退勤できる。
「未依は?」
「私も退勤して上がるところ」
「じゃあ場所を移そう」
律は先程冷却材を持ってきた看護師が空いているカンファレンスルームを教えてくれたため、警備員にケイトをそこへ連れて行くように頼んだ。
未依に着替えてくるように伝えると、律も医局に寄って退勤してからカンファレンスルームへと向かう。
ドス黒いオーラが漂っているのか、誰も話しかけてはこない。ただでさえ普段から無表情な律が、視線で刺せそうなほど鋭い目つきをして足早に歩いているのだから、それも当然かもしれない。
今夜は久しぶりに早く帰れる予定だった。未依の手料理を食べ、たわいもない話をして、夫婦の時間を満喫するはずだった。



