離婚するはずが、凄腕脳外科医の執着愛に囚われました


底冷えするような律の低い声に、しんと静まり返っていた周囲がバタバタと動き出す。すでに誰かが連絡をしていたのか、間もなく二名の警備員がやってきてケイトを両側から拘束した。

その際も『私を誰だと思ってるの?』と喚いていたが、抵抗したところで身元の引受人が来るまでは解放されるはずもない。野次馬の見舞客が動画を撮っているのも、こちらにとっては好都合だ。暴言や暴行の証拠となるだろう。

「須藤先生、これで神崎さんを」

看護師が持ってきた冷却剤をガーゼでくるみ、真っ赤に腫れている未依の頬に当てた。さっと診る限り、口の中が切れたり爪が引っかかって傷がついた様子もない。それでも、突然見ず知らずの女に叩かれるなど、恐怖以外のなにものでもなかっただろう。

すると、それまで呆然としていた未依がハッとしたように顔を上げ、冷却材を持ってきてくれた看護師に礼を告げた。

「香坂先輩、ありがとうございます」
「ううん。それより、大丈夫?」
「はい、私は平気です」

未依は気丈にも笑顔を作って頷いてみせると、律に視線を戻す。