未依は、会社員である優しい父と、看護師として働く快活な母の間に生まれた。
両親ともに忙しい人たちだったが、ひとり娘の未依に惜しみない愛情をかけて育ててくれたため、寂しい思いをしたことはない。
むしろ看護師として働きながら家事をこなす母を尊敬しており、将来の夢は母と同じ看護師だった。
未依が六歳の頃、近所に引っ越してきたのが須藤家だ。
兄の律と、弟の櫂。初めて会った兄弟の整った顔立ちに、子供ながらに驚き、ときめいたのを覚えている。
特に律は、当時すでに十二歳。身長も未依や櫂よりずっと高く、まるで絵本に出てくるお姫様を護る騎士のようだと感じた。
『初めまして。俺は律。こっちは弟の櫂』
『私は未依だよ。律くん、櫂くん、いっしょに遊ぼ!』
母同士があっという間に意気投合したため、ふたりとは家族ぐるみの付き合いが始まった。
母と須藤家に遊びに行くたびに、おしゃべりに興じる母親たちのそばで、兄弟は未依の相手をしてくれた。
とはいっても、弟の櫂とは三つ、律とは六つも年が離れている。未依が小学校の高学年になる頃には、律はすでに高校生。不在のことも多く、遊ぶというよりはおやつを食べながらおしゃべりをしたり、勉強を教えてもらったりする方が多かった。



