職場で未依はいまだに旧姓を使っているし、周囲には結婚していることすら話していない。それを知っているのは、院長である未依の義父や人事課の数人のみ。
変に目立ちたくないし、学生時代のように嫉妬から嫌みを言われるのはこりごりだった。
須藤兄弟といえば幼い頃から地元では有名で、中学や高校にはファンクラブのような集まりすらあったほど。
『親同士が仲がいいからって、調子にのらないで』
『お子様はお子様同士、同級生と遊べば?』
『須藤くんの周りをうろちょろしないでよ! すっごく迷惑!』
未依が小学生の頃には、年上の中高生の女子から罵詈雑言が浴びせられた。そのたびに律や櫂は庇ってくれたけど、それが女子たちを余計煽っていたのを、ふたりは理解していただろうか。
そうした妬みを向けられるのは慣れているが、当然いい気はしない。須藤兄弟に非はないけれど、できるだけ職場では関わりたくないのが本音だ。
とはいえ、結婚を周囲に隠しているのは、それだけが理由ではない。
(この結婚に愛はない。ただ律くんが同情で籍をいれてくれただけなんだから……)



