離婚するはずが、凄腕脳外科医の執着愛に囚われました


(ものすごい数の幸せが逃げていってるな)

未依の口癖を思い出し、ひとり苦笑する。

彼女の部屋は用意してあるが、寝室はひとつしかない。夫婦として暮らすつもりだったため、ふたりで眠る用のキングサイズのベッドのみ。

どうすべきか、律は頭を悩ませていた。

未依を抱きたい。その思いは十年以上も前からある。それを鋼のような理性で抑え込んできたのだ。きっかけさえあれば、箍などすぐに外れてしまうだろう。

けれど無理強いはしたくないし、それでなくても怖い思いをしたばかりの彼女に迫るつもりは毛頭なかった。

せっかく未依が律との未来を前向きに考えようとしてくれているのだ。それを台無しにするような真似はしたくない。

とはいえ、同じベッドに入ってなにもしないなど、もはや拷問に近い。

「……ここで寝るか」

幸い、リビングのソファはかなり大きく、寝返りは打てなくとも横になれるだけの余裕はある。病院の仮眠室にある固い簡易ベッドを思えば余程マシだろう。