離婚するはずが、凄腕脳外科医の執着愛に囚われました


部屋が荒らされているわけでも、なにかが盗まれたわけでもない。けれど、明らかに誰かが入った痕跡がある。その不気味さに、未依は真っ青になって震えていた。

(十中八九、ストーカーの類いだろうな)

恐怖に怯える未依を見て、こんな風に怖がらせる犯人に怒りが湧いた。

離れていた間の交友関係をすべて把握しているわけではないが、少なくとも他の男と交際していた素振りはないと櫂から確認済みだ。

けれど、未依は既婚者であることを周囲に隠している。彼女に好意を寄せ、恋人になりたいという願望を抱いている男が少なくない数存在することを律は知っていた。

病院での評判も上々で、患者だけでなく医師や検査技師などからも未依の評価は高い。看護師としてはもちろん、女性として魅力的であると話しているのを耳にしたのは一度や二度ではない。

警察も当てにならず、問答無用で未依を連れ帰ったのは、夫婦としての生活をスタートするため帰国が決まってすぐに購入したマンションだ。

まさかこんな風に彼女を連れてくることになるとは、なんとも複雑な気分だったが、マンションを見るなり目を丸くする未依を見て、非常時だというのに口元が緩む。