離婚するはずが、凄腕脳外科医の執着愛に囚われました


外科医としての手技を磨きながら内科的治療も行うため、常に勉強が必須。脳の手術は後遺症のリスクがあるため難易度が高く、手術時間も長い。患者の命に直結する診療科であるものの、律はやりがいを感じた。

貪欲に多くを学び、手術経験を積み、チームとして患者を助けられるよう人間関係にも気を配った。

命を救う現場で色目を使ってくる常識外れな女性は論外のため鋭い視線と言葉で追い払ったが、向上心を持って取り組む同僚とは互いの意見を交換しながら学ぶ日々。

その結果、律に臨床留学の話がきたのは誤算だった。いつかアメリカでも経験を積みたいと思い、USMLEに合格していたのが大きかったのだろう。

アメリカのオリバー・デイビス医師に師事した日本人の脳外科医は、これまでひとりもいない。より多くの経験を積むチャンスだと感じると同時に、未依のことを思えば躊躇いもあった。

それでも海外に行くと決めたからには、数年は彼女と会えないのを覚悟しなくてはならない。

きちんと思いを告白して未依にプロポーズするのが筋だし、そうすべきだとわかってもいた。けれど、もしも断られてしまえば、アメリカへ行かなくてはならない律に口説く時間的猶予はない。

結果、自分の気持ちを明かさないまま婚姻届を記入させ、彼女を法的に縛り付けた。悪手だとわかっていても、どうしても未依を手放せない。母からの鋭い視線を無視し、父の申し訳なさそうな顔に見送られ、律は妻となった未依を残してアメリカへと飛び立ったのだった。