離婚するはずが、凄腕脳外科医の執着愛に囚われました


「ここ、いいか?」

突然、声を掛けられ、未依の心臓が嫌な感じに跳ね上がった。

顔を上げなくてもわかる。心地よく響くバリトンボイスは、子供の頃からずっと聞いてきているのだ。数年のブランクがあろうと、間違えようがない。

ちらりと上目遣いに見れば、案の定、律と櫂がふたり揃ってこちらを見下ろしている。

ざわめきが一層大きくなったのを肌で感じ、未依は心の中で叫んだ。

(よくないよ! なんでわざわざここに座るの……!)

大勢の医療従事者が働くため、食堂は寛げるようにかなり広く作られており、昼食時でも満席になることは少ない。今も多くの職員が利用しているが、探せば空いているテーブルは見つかるだろう。

けれど、律は未依の前に定食の乗ったトレイを置いた。

四人席をひとりで使っているとはいえ、他に空いている席があるにもかかわらず律が未依のところへ一直線に向かったため、周囲の人がみんなこちらを窺っているのがわかる。