人質5歳の生存戦略! ―悪役王子はなんとか死ぬ気で生き延びたい!冤罪処刑はほんとムリぃ!―

「ケークアさんと、ケーキの職人さんたち!」
「は、はい!」
厨房のちょっと広いとこにズラッと並んだ、おそろいの制服を着た職人さんたちが、「なんだこれ」と「え、なんかまずいことした?」みたいなのが混ざった顔でこっちを見てる。

(大人の人たちに、めちゃ見られてるぅぅ……)
だ、だいじょうぶだいじょうぶ。すごくいいよぉぉ~ってう言われたり、ありがとぉぉぉって言われて嫌な人なんて、どこにもいない……はず。多分。

「おはなばたけのケーキと12色のっ――」
ちゃんとここにくるまえにノートを見返して覚えてきた。カンペ見ながらじゃ、うそっぽいもんね。

「……っ、かわいいデコレーションのケーキ」
くっ、なのにちゃんとした名前、わすれたっ!不覚ぅ。

「とってもとってもきれいでびっくりでした! お花畑がこまかくて、お花一つ一つすごくかわいくて、ずっと見てたいから、食べるのもったいなくて、困りました」
「はわ……ありがとうございます……」

はわ、って言った? え、なんかガチガチじゃない? だいじょうぶ? 迷惑とかない?
急にこんなこと言われると驚くかもだし……。でも! ここまできたらちゃんと言うよー。

「でも、食べないのももったいないよって言われて、それで食べました!」
「ど、どうでしたか……?」
「お口に合いましたでしょうか……?」
身を乗り出して聞いてくれるのちょっと嬉しい。これはぁ、きっといい感じのリアクション。

「お口、合ったというか……」
しまった。想定問答とかやってなかったぁ。
「……!」
なんて答えよ、って迷ってたら、なんかガチガチの皆さんがガチンがチンに進化?してた。

「あのぉ、お口に入れたら、びっくりして、お口がおはなばたけみたいになりました」
「……?」
ど、どうしよう。ぼく、アドリブダメだよ。全員、顔が?になっちゃった!

「あの、あのね。お口に入れたら、あんまりおいしくて、びっくりして、お口の中がおはなばたけみたいに幸せになったの。だから……ありがとうございますって」

「…………」

……あれ? 今、時間止まってる? え、大丈夫そう?

「あの――」

「うおおおおお!!」
「……!?」
おたけび? 急なおたけび??

「わぁぁああ、ありがとうございますぅぅぅっ」
「うれじいぃでずぅっ」
「……?」
「え……ちょ、ちょ。なんで、なんで泣くのぉ。嫌なこと言ってないよぉ?」

まさかぼく、なんかへんなこと言った? 仕事場にお邪魔して職人さんをいじめたとなったら、一大事! ぼくのイメージと今後に影響する!

「あわわわ、泣かないでぇ。大丈夫だよぉ、ぼく、ありがとうしにきただけだからねぇ」
急いで職人さんのそばにいって、背中をトントン。

「うぅぅぅ……あり。ありがとうございますぅぅ」
なのに、ますます泣くのなんでぇぇ?

「あわわわ……泣かないでぇ? ね?」
どうしようどうしよう。焦りながらひとりずつ、なでなでするしかないぼく。無力、かつ無策。

「……っ、今まで長い間やってきて、こんなにまっすぐに褒められてのは、うっ……はじめてです」
「なんでぇ。こんなにすごいのにぃ。たくさんいってもぜんぜん足りないくらいよぉ?」
「ううっ、ありがとうございます」
あれかな、ケーキみたいなデリケートなお菓子を作る職人さんは、こう繊細で感激屋さんなのかな? ともかく、ぼくが嫌なこと言ったんじゃなくてよかったぁ。

「さあ、サファさま。そろそろお暇しましょうね」
なんか微妙に収集つかなくなってきたのを察した、侍女さんがそっと促してきた。
「あ、そうね。お仕事お邪魔なっちゃうね」
「いえ、そんな! 邪魔だなんて!」
あらぁ、ありがとぉ。でもね、もうね、帰らないとね。

「お仕事なのにお話ししてくれてありがとぉ。がんばってねえ」
「はい! 頑張ります!」
え、そんなシャキーンてならないでいいのよ! ぼく、ただの5才だからね! なんもない、子どもだからね!

「じゃあねえ、ばいばーい!」
「はい! ありがとうございましたああ!」

チョコレートいろいろのカカオールさんたち。
「身に余る光栄でございます。殿下」
やだぁ、そんなかしこまらなくていいのにぃ。

「お言葉を胸に、今後より精進いたします、殿下」
ちょっともぉ、なんか照れちゃってムズムズするからぁ……えへへ。

キャンティとボンボンといろんな飴の、キャンディスさんたち。
「まあ……わざわざ私どもにお礼を……? まぁまぁ、なんてこと――」

ずっと、まぁまぁ言ってる。
「まぁまぁ、頑張っててよかったですわ……うふふふ、ありがとうございます!」
うんうん、なんか嬉しそうだからよし。

サブレとクッキーの、サブリナさんたち。
「きゃぁ、お気に召していただけたようでなによりですー!」

にこにこ楽しそーでよかったぁ。

「実は新しい自信作があるんですの。今度お作りしますからぜひ召し上がってくださいー!」
「わぁぁぁ、たのしみぃぃ!」


***

「ふぅぅぅ、これでぜんぶ。ね?」
「はい。王宮専属の職人様方にはすべて直接お礼をお伝えし、カードをお渡しされましたね」
「街の職人さん方にも、すでにお手紙送付の手配済みですわ」
「かんっぺきです、サファさま」
パチパチパチ、という拍手が3人と、あと部屋の向こうの方からも。

「うふふふふ」
一仕事を終えた気分。とりあえず、今日会った職人さんたちみんないい感じでよかったねえ。気難しい人とか、子どもが味なんかわかるのか?みたいな人とか、仕事の邪魔するなみたいな人とか全然いなかった。
とりあえず、見た感じの雰囲気では。

「…………」
え、大丈夫だよね。みんな大人だから合わせてくれただけかもしれないけど、嫌な感じではなかったよね。表面上は。

「…………」
ほんとはめちゃなんだよめんどくさいな、子どもの相手させて。とか思われてたらどおしうよぉぉ。

「あのぅ……」
ちょっといい気になってそっくり返ってた背筋が、しょんと縮む。
「ぼく、じゃまじゃなかったかなぁ? だいじょうぶと思う?」
「まぁ……!」

そしたら、3人息を合わせて「まぁ」の顔になる。
なにぃ?
まさか……「今さらそんなこと? わかってなかったんですか?」とか言う?

「そんなこと、あるわけありませんわっ!」
あるわけありません……むむ、どっちぃ? むずかしぃ……

「そうですわ。皆さん、大変喜んでらしたの、サファさまもご覧になったでしょう?」
「うん……でもぉ、みんな大人だからぁ、優しくしてくれただけかも」
そう言ってたら、だんだんそうに違いない、みたいな気になってくる。

「ぐすん……」
ぼくに褒められたりお礼されたところで、別に意味とかないし、うれしくないよね……

「しく……」

「まぁまぁまぁ……」
またいっせいに「まぁまぁ」しだすぅ。
ぼく、今日「まぁまぁ」されすぎじゃない?

「サファさまはときどき、あまりにも心配しすぎですわ」
「え」
「本当に、まっったく必要のないところで」
「そ……」
「ぜっっんぜん問題のないことで」
「そうなの?」

なになに、すんごい強調するじゃん。
「えー、じゃあ、だいじょうぶ? だれもめいわくじゃない?」
「もっちろんですわ」

「みなさんとても嬉しそうで、中には、涙を流して喜んでる方もいらしたし」
「あ、そういえばあのときも、サファさまはなにか嫌なこと言ってしまったのではないかと、心配されてましたわね」
あ、ケーキさんチームのとこ。だってみんな、急にわーってなるからぁ。

「大丈夫ですわ。何も心配なさらずに。私たちを信じて」
「それとも、私たちがなにか誤魔化していると思われますか?」
「う……ううん」
それはないと思う。なんか割と顔に出ちゃうし、そういう点で悪巧みとかへんなことしなさそうで信用できる。

原作でも、良くしてくれてたし。
途中で、ブチギレて愛想つかすまでは。

「…………」

うん。あんまりいらない世話をかけてもダメよね。

「じゃあ、私たちを信じて安心してくださいませ」
「うん、わかったぁ」

いったんそこで疑うポイントはなさそう。
信用されてないって思ったら、ブチギレ期限が早まるかもしれないしね、うん。

「ふふふ、よかったですわ」
「じゃあ、お茶をいれますから、少しお休みなさいませ」
「もうすぐお夕食ですからね」
「はぁい」