人質5歳の生存戦略! ―悪役王子はなんとか死ぬ気で生き延びたい!冤罪処刑はほんとムリぃ!―

「こちらでございますわ、サファさま」
「わあ、なにこれなにこれ!」

目の前に超びっっくりな大きな……布におおわれたなにか、どどーん。
「ぼくよりおっきいかも」
ちょっと背くらべしたくなるくらい大きい。

「サファさま。こちら、国王陛下からの贈り物でございます」
「えっ、こくおうへーか! えっ」
どどど、どういうこと? なんで、ぼくに? え、おくりものって言った??

「さあ、こちらへ、サファさま」
「え、あの、でも……え? なにぃ、これえ?」
どどーん、ななにかをじーっと見ても、透視はできないし、予想もつかない。ので、不明。

「ふふふ。まぁ、ご覧になればおわかりなりますわ」
「ほ、ほんとにいいの?」
なんでぼくが? 王様に贈り物を? え、なんかの罠とかではなく?
開けたら、不届き者が!とか、調子に乗って!とか、身の程をわきまえろ!とか、ならない?
ほんとに平気?

「もちろんですわ。サファさまへの贈り物ですもの」
「ええええ。さあ、お開けてくださいませ」
「わ、わああ……」

ほんとに、ぼくに贈り物なんだぁ?
なんだろお? 贈り物ってちゃんといいやつだよね。
ここにきて急に、なんか悪いことだったりとかしないよね?
いまいち、安心できない……。王様に贈り物もらう人質って、意味不明だし……。

「サファさま? どうかなさいましたか?」
「あっ、ううん!」

まずい。ここで迷ってても、王の贈り物を疑うのか!逆に不敬である!ってなりそぉ!
だ……大丈夫だよね?
王様、昨日めちゃご機嫌そうだったし……ね?

「じ……じゃあ、開けてみるねっ」
ここはもう、開けるしかないっ!
よいしょ、と布をつかんで――

「えいー」

布が、ちょっとずれた。

「えいーーっ」

もうちょっとだけ、ずれた。

「……?」

どうやって開けるの、これ? ちょっと布ひっぱっても、それがなにか?って感じなんだけど。

「失礼しました。私どももお手伝いしてよろしいですか?」
「うん、おねがい」

無理して、どんがらがっしゃんしたら最悪なので、ぜひお願いします。

「それではいきますわよ。せーのっ」
「よいしょーー!」

わくわく。どきどき。
黒い布の向こうに、なにがあるのか?

めちゃいいものとかじゃなくてもいいから、悪いものじゃありませんよーに!
例えば、やまもりのシーツが出てきて、全部ひとりでたたみなさい、とかでもいいです。がんばってやるので。

ぜいたくは言わないです、怖いものじゃなければいいです。

「――さあ、こちらですわ。サファさま」

「えっ! えええっっ! なにこれなにこれ!」

布の向こうにあったのは、山のように積まれたキレイな箱とかカゴとかたくさんたくさん!
色とりどりの包みや箱やリボンで飾られた、すっごいきれいなやつ!

「こちらは、特別に作られたお菓子です」
「ふわぁぁぁぁ! おかし!」

すごい。この世界にこんな上等そうなきれいなお菓子あったの!?
見るからに上等で、もう……もう絶対においしいやつ! 間違いない!

でも、でもぉぉぉ……!

「あのっ、ど、どうして? これ、ほんとにぼくに!?」
「ええ、国王陛下からサファさまへの贈り物だそうですわ」
「ほんとのほんとに?」
「はい。もちろんです」
「わ……わぁぁ、すごい! すごぉぉい!」

ほんとなんだっ!
とんでもないおくりもの。すごい。王様なんで? いや、とにかくすごい。

「ふぁああああ、すごいっ! たくさん!」
あっちを見てもお菓子、こっちを見てもお菓子。いろいろたくさん。びっくりするほどきれいなお菓子たち。

「サファさま。どれがお好きですか?」

「えっ、えっ……どれ……え、ぜんぶ! ぜんぶ好きだよっ」
どれだなんて、なんてぜいたくな。

「これも……これも、みんなみーんなおいしそう!」
「ふふふ、お気に召したようでなによりですわ」
見れば見るほど、信じられないくらいきれいだ。

「ふぁぁ……たくさんある。すごい、きれい……」
もう、もう、ため息しか出ない。

「ねえ、ねえ、ねえ」
「はい、なんでしょう?」
「これ、本当に全部お菓子?」
「はい。ケーキ、焼き菓子、チョコレート、キャンディ、マカロン、種類はいろいろありますけれど、全部お菓子でございますわ」

「う、うわ……」
うそみたいだ。信じられない。

「え、これは? これは、お花だよね?」
きれいなカゴに飾られた色とりどりの花。お庭で見るお花よりピカピカして見えるけど、そういう種類のお花かもしれないし、形はカンペキにきれいなお花だ。

「ふふ、お花そっくりですわよね。でも――」
「えっ、ちがうの?」
「はい。こちらは飴細工のお花なんですよ。花も茎も葉っぱも、全部食べられます」
「えええっ! これつくったの? あめで? すごい、すごぉぉぉい!」
「素晴らしい技術ですわよね。王宮の専属菓子職人が丹精込めた品ですわ」
「ふぁああ……すごいっ! ぜったいほんもののお花みたいなのに」

「じゃあ、ねえねえ、これは? これは宝石よね? ぼくわかるよ。赤いのがルビーで青いのがサファイア、みどりのはエメラルド! 形もキラキラも、ぜったい宝石だもん!」
宝石箱みたいな箱に、きれいにカットされた色とりどりの宝石がたくさん並んでいる。

「ふふふ、そう思われるでしょう? 実は――」
「えっ、えっ、なにー?」
「こちらもお菓子なんですよ」
「ええっ……おかし! これ? ほんとに?」
たしかに、宝石にしては大きすぎるけど、でもおかしなの!?

「このお菓子、こう見えてやわらかくて、プルプルしているんですよ。いろいろな果汁のはいったムースケーキです」
「ぷるぷるっ! カチカチじゃないの!」
「はい。プルプルでおいしいケーキですわ」
「はわあああ……すごい! 見た目とぜんぜんちがうっ」

「ふふふ、サファさま。ほら、こちらにもたくさんございますよ」
「わぁぁ……すごいっ! こっちにもたくさん! ……あ、こっちも!」
おかしの山のまわりをぐるぐる。あっちもこっちもすごくて、目移りがすごい。

「……わ! これは? これなにぃ? まあるいの? お星さまたくさんのってる! お月さまのもある!
淡いピンクにブルーにむらさき、緑に黄色……いろとりどりのパステルカラーのまんまるがどうしようもなくかわいい。しかも一つ一つに、小さな星や月の飾りがたくさん飾られている。

「こちらはマカロンですわね。やわらかくてムチッとした、甘くておいしいお菓子です。こちらもいろいろな味があるんです」
「はぁぁ……こんな小さいお星さまたくさんのってて、いろんないろで、むちっ、でおいしいの? すごいぃぃ……」

「サファさま、今日のお茶の時間に、こちらはいかがですか?」
「え? それ……」
侍女さんが指したのは、お菓子の山のど真ん中にあった、ひときわ目を引くものだった。あちこち目移りしすぎて見つけそびれてたけども。

「……!」
すっごい。

「おっきぃぃ! これ、ケーキ?」
「さようでございますわ」
大きなまあるいケーキは、白いクリームの上がなんと……

「おはなばたけっ! これ、これ、ぜんぶたべられるの!?」
「はい。このお花も草原も、全部お砂糖でできていますから、このままお召し上がりになれますわ」
ケーキに砂糖菓子の花畑!

「他は少し置いておけますけど、こちらは生菓子ですから、今日いただきましょうか?」
「うん!」

お花畑のケーキをおやつに食べる……すごい。
こんなことしていいの。あとから身分不相応なぜいたく!って怒られない?

「あの、本当に……たべてもいいの?」
「もちろんですわ。せっかくのいただきものですから、どうぞお召し上がりくださいませ」

そ、そうか。食べなかったらそれはそれで失礼かぁ。なるほど、そうだよね。

「じゃあ、あとで食べるっ!」
今日のお昼ごはんは控えめにしよう。そうしよう。お花畑ケーキが待ってる!

「このおはなばたけ、ほんとうにきれいねー」
「そうですわね。職人がひとつひとつ手作業でつくったお花ですから、素晴らしい出来ですわ」
「わああ……たいへんそぉぉ」
「ええ。これだけのものが作れる職人は、この国にも何人もはいませんでしょう」
「…………」
じぃぃっとケーキのお花のひとつひとつを見ていると、なんかちょっと……ふくざつなきもちになってくる。

「たべるの、もったいないね」
「大丈夫ですよ。お願いしたら、きっとまたつくっていただけます」
「うん……」
「それに、召し上がらないと、そちらのほうがもったいないですわよ」
「……そっかぁ」
うんうん、それはそうだ。だって、これはケーキだもの。

「ケーキは食べるためのものだもんね。ずっと置いておけないもんね」
「ええ、そのとおりですわ」
「うん! たのしみぃぃ」

午後のお茶の時間まであと4時間! わくわくがとまらなくて足がぴょんぴょんしちゃう!


***

日課のお茶の時間、真っ白なお皿に、きれいにきりわけられた花畑のかけら。
慎重にひとくち食べて――

「……!」
口の中が楽園みたいになった。

なにこれえええ! ふわふわああ! とけるぅぅ!
――あ、もうなくなった。

「ふぁぁぁぁぁ!」
お口が空になったな、とおもったらなんか声が出ていた。

「ふふふ、お気に召しましたか?」
「うん! うん!」
びっくりして、お皿に残ったケーキをじぃぃっと点検する。
「これ、ふわぁふわぁ! すごい! あまくてふわふわでおいしいのっ!」
「あらあら、ようございましたわね」
侍女さんはふふふふ、と笑ってるけど、これを一口食べればそんなのんきな顔してられないと思う。

「これ! これ、みんな食べてみてっ!」
「え、私どもがですか?」
「うん! みんなで! 兵士さんも! 他の人も、みんなでっ!」
ほらほら、きてきて、と見える限りの人においでおいでする。

「ですが、これはサファさまが陛下からいただいたもの。私どもがいただくわけには……」
「そうですわ」
「恐れ多いです」

「なんでええ? これ、大きなケーキ! ぼくひとりで、たべられないよっ?」
「ですが……」
「たべないともったいないって、さっき言ってたのにぃ」
熱弁をつづけて、ここではた、と気づく。

「もしかしてぇ、みんなが食べたらおこられる?」
それなら無理にはお願いできない。
そのときはぼくがっ、お腹がはれつするカクゴでっ、明日までかかってでも、食べるしかないっ!

「いえ、そんな怒られるようなことはありませんわ」
「ええ。ですが、こちらはサファさまがいただいたものですから――」
「よかった! じゃあたべよ!」
よかったよかった、ぼくのお腹がはれつする心配も、明日までかかる心配もなくなった。

「ほんとうによろしいんですか? 皆でいただいても……」
「みんなで! 今いない人の分は、取っててあげて!」
なにしろ大きいから、足りなくなる心配もない。

「ほらほら、はやくお皿とフォーク、あとお茶も用意して!」
「まぁぁ……なんてお優しいこと」
「では、お言葉に甘えてありがたくいただきますわね」
「そうしてそうして! あ、お皿じゅんびするの、ぼく、てつだうよ」
「いえいえ、サファさまはどうぞそのまま召し上がっててください」
「ええ、すぐ用意できますから、お気持ちだけで大丈夫ですわ」
「そぅ?」
「ええ、ほら、お早くお召し上がりくださいませ」
「うん!」

よーし、これで安心っと。みんな、お口に入れたらびっくりするなー! どんなお顔するか楽しみっ!

「うふふふ」
ぼくはウキウキでフォークをケーキに刺した。

***


「まぁぁぁ……」
「これ、口の中でとろけましたわ!」
「なんて繊細な味……」
「はぁ……これはまことに美味ですな」
「うふふふふ。そうでしょうそうでしょう。ほらほら、まだたくさんだからどんどん食べてぇ」
「はい!」
「ええ。ありがとうございます」

ぼくはみんなのびっくりおいしい顔を、まるで自分が作ったみたいに大満足で眺めた。


***

「サファさま、私どもにまで陛下からいただいた貴重なお菓子をいただき、誠にありがとうございました」
いつもお部屋の向こうとかにいて、ぼくの身の安全を確保してくれてる王宮の兵士さん。わざわざお礼言いにきてくれたのかあ。律儀だ。

「ふふ、へいかにぃたくさんいただいたの、大きなケーキだからみんなで食べないとねえ」
「はっ。お心遣いに感謝いたします」
「いいよう。みんなのおいしい顔たくさんみれたからぁ、大まんぞく。ふふふふ」

「サファさま、私もありがたく頂戴いたしました。大変おいしゅうございました」
いつもお部屋のお掃除とかいろいろやってくれるお姉さんも。

「ねー、おいしかったねー。まだいろいろたくさんいただいたから、みんなで一緒にたべようねえ」
「……まあ、なんて慈悲深いお方でしょう」
「えぇ? おおげさぁ」
「まあ、本当に……」

ちょっとぉ、なんでうるうるするのぉ。
だって、冷静に考えてみると、あの量のお菓子、ひとりじめはまじで無理よ?
おなかバクハツどころじゃなくなっちゃう。物理的にお腹に入らない。日持ちお菓子があるとはいえ、限度があるよ?

「本当にサファさまはお心が広い」
「使用人にも侍女にも、惜しみなくわけてくださって」
「なんてお優しいのかしら」

侍女さんやいろんなお部屋の人たちがひそひそしてる。

……ん?

これはもしやああ! 周りの人にちょっといい人かも、って思ってもらえたかもしれない感じ?
まぁ、うっかりケーキで釣った感じになってしまったけども……ま、悪気はなかったしいい、よね?

単に大きすぎてひとりで食べ切れるわけなかったのと、みんなのびっくりおいしい顔がみてみたかっただけだけど。

まぁまぁまぁ、それはそれということで。

「あとはぁ」

お菓子をつくってくれた職人さんにありがとうのお手紙と、それからもちろん王様に、すてきおいしいお菓子を沢山たくさんありがとうのお手紙を書かないとね。

王様にお手紙!?

た、大変だ!