ある、あたたかな夜のことです。
ちいさなうさぎのミーミは、眠れずにベッドから起き出しました。

ふと窓からお空を見上げると、高いところにぽっかり浮かんだまんまるのお月さまが、暗い夜空をてらしています。

「わあ」

じいっと見上げていたミーミは、びっくりして声を上げます。

「お月さまが笑ってる!」
なんと、まんまるお月さまが、ニッコリ笑っているではありませんか。

「お月さま、どうして笑っているの?」

ミーミがたずねると、お月さまはやさしい顔を見せて答えました。

「それはね、ポケットにステキなものをしまっているからだよ」
「ポケット?」
「ほら、みてごらん?」

ミーミはまたびっくり! まあるいお月さまのおなかをよく見ると、そこにはふしぎなポケットがありました。

そして、目をこらしてよーく見てみると、ポケットのすき間からキラキラひかるなにかが、ちょこんと見えかけています。

「お月さま、ポケットにはなにがはいってるの?」

ミーミがきくと、お月さまはやさしくポケットを開きました。

「このポケットにはね」
お月さまは、大事なないしょ話をするみたいに、ひそひそ声で言いました。

「みんなの、とっても大切なものがはいっているんだよ」

お月さまがそっと手をいれると、中から小さな星がひとつふたつ、浮かびます。

「これはこいぬのコロが、だいすきなおもちゃでお友達と遊んだたのしい気持ち」

つぎに、ふわふわの光のかけらがぽんっと飛びだしました。

「これはリスのチッチが、はじめて食べたどんぐりケーキのおいしい味のきおく」

「わああ」

目をかがやかせるミーミに、お月さまはそーっとポケットの中を見せてくれます。

「ほら、他にもまだまだたくさん」

そこには、みんなのうれしかった気持ちや、たのしかったきおくが、いくつもいくつとキラキラとかがやいていました。

「わあ……! みんなのだいじなもの、こんなにいっぱい、お月さまがまもってくれているの?」

おつきさまは、やさしくうなずきました。

「うれしいこと、たのしいこと、大すきなきもち…… なくならないように、ちゃんとここであずかってるんだ」
「すごい……じゃあみんなあんしんだね」

ミーミはうれしくなってぴょんぴょんしながら言いました。

「あれ? でも――」
ミーミはひとつふしぎに思って、首をかしげました。

「その、みんなのたいせつなものたちは、これからどうなるの?」

お月さまは、すっかりまっくらになった夜空に、つぎつぎにたいせつなものを浮かべながら、ミーミに笑いかけました。

「夜のあいだは、こうして星にして空にうかべているんだよ。だからみんな、夢のなかでまた会えるんだ」
「わああ……すごい」

ミーミはそっと、胸に手をあてました。

「じゃあ……ぼくの“たいせつ”も、お月さまのポケットにあるのかな?」

お月さまは、ニコッとわらって、ミーミのほっぺにちいさな光をふらせました。

「もちろんだよ。ミーミがしあわせだったきおくは、ぜんぶここにあるよ」
「あっ、これは――」

ミーミはその光にそっとふれながら、パチパチとまばたきをしました。

「ママとパパと、ピクニックでにんじんケーキを食べたときのおいしい、とたのしい、の気持ちだ!」

お月さまは、そうだよ、というようにちいさくほほえんでいます。

「そしてね、あさひがのぼるころには、たいせつなものはみんな、またポケットにしまわれて、おやすみするんだ」
「わあ、そうなんだ……!」

ミーミは不思議な気持ちで、夜空に浮かぶみんなのキラキラなたいせつを見上げました。

「じゃあ……」
そして、お月さまをまっすぐ見つめてたずねます。

「今の、お月さまとお話したこのうれしい気持ちも、キラキラの星になってお月さまのポケットにしまわれるの?」

「ふふふ、そうだよ」

お月さまが目を細めてふんわりとうなずきます。そのポケットの中からは、またひとつ、小さなキラキラの星がうまれました。

その星は、くるくるとミーミのまわりをまわりながら、キラキラと光をふりそそぎます。

おつきさまのポケットには、みんなのたいせつなものがいっぱい。 そして、ミーミのうれしい気もちも、キラキラとかがやいて、そらにのぼっていきました。

お月さまは、夜空のもっと高いところにのぼりながら、ミーミを照らして言いました。

「だからね、ミーミ。きみのたいせつなことを思い出したいときは、空を見あげてお願いしてごらん」

だんだんと高くとおくなりながら、お月さまの言葉はしっかりミーミにとどきます。

「お昼でも、ぼくが空に見えなくても、ずっとそこにいるよ。きみがおもいだしたいときは、いつでもこのポケットからだしてあげるからね」

「うん、わかったよ、お月さま! ありがとう」

「おやすみ、ミーミ」
「おやすみなさい」

ミーミはしずかに空を見あげ、お月さまがすっかり遠くなるまで見おくっていました。

おしまい。