……そうだ。
 前もこんな感じの出会いだった。
 
 ライアン様は、親に決められた婚約が気に入らなかった。だから数人居た婚約者候補の令嬢みんなに冷たく接していたんだ。
 
 そして、最終的に婚約者として私が残ったんだ。私は、ライアン様に気に入られたくて、必死で歩み寄る努力をした。
 それによって、少しずつライアン様もお心を許してくださるようになって、ようやく婚約者と認めて頂けたんだった。
 
 ……でも、結局は私には、お心を許しきってはくれなかったのに、義妹のマリーナとはすぐに仲良くなっていたわよね。
 
 前世では、母が今から1年後に亡くなっており、私がライアン様の婚約者となった事で、公爵家の立て直しが出来た2年後には、父は再婚する。
 
 その連れ子がマリーナだ。
 マリーナは私より1歳年下で、確か子爵家の子供だったはず。
 夫である子爵に先立たれ、子爵家を追い出された夫人とマリーナを、子爵の友人だった父が引き取るのだ。
 このまま同じ事をしていれば、また婚約者となって、いずれはみんなに裏切られて死ぬ運命になる?
 そこまで考えて私はゾッとした。
 自然とライアン様を追いかけていた足が止まる。
 
 私が歩みを止めてもライアン様は振り向きもしないで、どんどん自分だけバラの庭園に向かって歩いていく。
 
 そうだ。
 この人はいつもそうだった。
 私が必死で追いかけるばかりで、この人が私に合わせてくれた事なんて一度もなかった。
 
 もっと早く気付いていれば良かったんだ。
 この人のそばに、私の居場所は初めからなかったことを。
 
 いまだに振り向かずに行ってしまうライアン様の背中を見つめながら、私は決心した。
 
 何故また7歳に戻っているのかは分からない。
 だけど、自分の行動次第で今回の人生は変えられるのではないか?
 
 なら、するべき事は1つだ。
 
 私は踵を返し、謁見の間に戻る事にした。
 そして誰かいる場所まで来てから、子供の特権を活かして、泣き始める。
 
「お嬢ちゃん、どうしたの? 見かけない娘さんだけど、一人なのかい?」
 
 近くにいた騎士様が声を掛けてくれたので、私は事情を説明し、第一王子殿下とはぐれて迷子になったことを明かした。
 
「父がまだ謁見の間にいます。父のところに戻りたいのです」
 
 泣きながらそう訴える私に騎士様は同情的だ。
 そして、その状況は他の人達も見ている。
 
「分かりました。謁見の間までご案内しますよ。ヘルツェビナ公爵令嬢」
 
 こうして、私は騎士様に連れられて謁見の間に戻った。