私はジェシカに手伝ってもらい、早々にお出かけの準備をしてエントランスホールに向かう。
 
 幸い父はまだ来ていない。
 
 良かった! 間に合った!
 父は気が短く、待たせると途端に不機嫌になるから、いつも早めに用意して待っていたのだ。
 
 少し待っていると、お父様がエントランスホールに姿を現した。
 
「おはようございます、お父様」 
 
「うむ。ルーシー、準備は出来ているな? 出掛けるぞ」
 
「はい、お父様」
 
 私は父と2人で馬車に乗りこんだ。
 
「ライアン第一王子の機嫌を損ねるな。お前はライアン王子の婚約者になるのだからな」
 
 馬車に乗るなり父は私にそう言ってくる。
 
「……はい」
 
 そうだ。この頃の父は、先物取引で失敗し、傾きかけた公爵家の権威を取り戻すべく、私を第一王子の婚約者に据えて、王家との繋がりを持とうと必死だったはず。
 当時は知らなかったが、後で高官達が噂をしていて、そこで初めて家の現状を知ったんだった。
 
 お父様は私を愛してくれた事があっただろうか? 私が婚約者に決まり、王子妃教育を受け始めた頃から、もう安泰とばかりに私に見向きもしなくなったように思う。
 それでも親の期待に背くことのないよう、必死で頑張ってきた。
 厳しい指導や課題の山に、寝る間も惜しんで取り組んだ。
 毎日がつらく、投げ出したい時もあったけど、父やライアン様に見限られないように必死で足掻いてきた。
 
 なのに、結局は裏切られたのだ。
 
 でも、父は何故私を見限ったのだろう?
 王家との繋がりを一番欲してきたのは父のはずなのに……
 
 そんなふうに考えながら、父をちらちら見ていたら、不機嫌な顔で
「何だ」
 と、言ってきた。
 
 どうして貴方は私を捨てたのですか?
 
 心の中でそう質問しながら、
「いえ。なんでもありません」
 と返答した。
 
 こうしている間にどうやら城に到着したようだ。
 
 馬車が止まった。